文字の歴史と印刷文化

その3 摺る

7.「百万塔陀羅尼」 [摺]

百万塔陀羅尼

天平宝字八(764)年~神護景雲四(770)年制作(複製)
Hyakumanto Dharani. (facsimile)
One Million Pagodas and Dharani Prayers.
Japan: Nara Period, 764~770.

百万塔陀羅尼とは奈良時代、称徳天皇の発願により作製された木製の三重小塔とその塔身に納められた陀羅尼経の総称です。塔身には根本、相輪、自心印、六度の4種類の陀羅尼のうち、いずれかが納められています。
「拾芥抄」などによると、南都七大寺(大安寺・元興寺・興福寺・薬師寺・東大寺・西大寺・法隆寺)および摂津の四天王寺、近江の崇福寺、大和の弘福寺の十大寺に十万基ずつ分置したといわれていますが、現在、法隆寺に四万五千基あまりを残すのみとなってしまいました。
印刷方法については、木版説や銅版説など諸説あり特定できませんが、印刷年次の明らかな世界最古の印刷物とされています。




8.宋版 袁樞撰 「通鑑紀事本末」 [摺]

宋版 袁樞撰 「通鑑紀事本末」

巻十三(二冊)全四十二巻 宝祐5(1257)年刊
後印(南宋)
Yuan Shu
Tongjian jishi benmo [The History of China]. Vol.13 (2 books) of 42 vols.
China: Southern Song Dynasty, Huzhou-Baoyou 5 (1257).

「通鑑紀事本末」は11世紀末に司馬光(1019~1086)が編年体で編纂した戦国時代から五代までの中国史「資治通鑑」を袁樞(1131~1205)が事件別に再編纂したものです。人物や年代ではなく、ある出来事ごとにその顛末を記すこのような形式は「紀事本末体」と呼ばれ、後の歴史書でも踏襲されました。
「通鑑紀事本末」は数種の版が知られていますが、本学所蔵の宋版は、大判で端正な美しさをそなえています。現存数が非常に少なく、書物史にとって大変重要な資料であり、文字は現在一般に使用されている明朝体のもとになったといわれています。




9.朝鮮李朝 「木活字」  [摺]

朝鮮李朝 「木活字」

16世紀頃
Korean Wooden Type.
Korea: Yi Dynasty, ca.16 century.

朝鮮李朝(1392~1910)の木活字。元代に梨や棗(ナツメ)の木を用いた木活字が考案されてから、活字印刷の方法は周囲に伝播し、朝鮮では15世紀に金属活字が造られるなど、盛んに銅活字印本が出版されました。木活字も14世紀に始まり、20世紀初頭に至るまで推定で28回造られたといわれています。今回は「宮」「田」の二文字を展示します。